A:口伝の悪魔 シュガール
「光の氾濫」によって、多くの信仰が消え去ったが、一方で、親から子へ語り継がれることで、生き延びたものもある。
悪魔「シュガール」の寝物語は、その好例と言えるだろう。
言うことを聞かない悪い子のところには、トカゲの姿をしたシュガールがやってくるというありふれた話だ。最近、アム・アレーンを騒がせている巨大なシビルスが、その名で呼ばれている背景には、こうした口伝の影響があるのさ。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
アムアレーンにはナバスアレン時代、それよりずっと以前から伝わる昔話がある。
要約すれば「言うことを聞かない悪い子の所には悪魔が来るぞ」というありがちな昔話なのだが、実はこの伝承には正式に史実として記録に残る出来事があるのだという。あたしは仕事とはあまり関係しないとわかっていたが興味を惹かれてクリスタリウムの博物陳列館にある書庫を訪ねた。あたしが没頭する間暇になってしまうので相方は渋い顔をするのだが、結構実話をバックボーンにしたこの手の伝承・口伝はあたしの好物なのだ。足取りも軽く、扉を開けた。
博物陳列室は3階建てで、中央が吹き抜けになっていてその真ん中に鉛筆を立てたような塔があり、その塔に螺旋階段が巻き付いている。その螺旋階段から建物の内周に設けられた3層の開放廊下にそれぞれ渡ることができるようになっているのだが、建物の内周は上から下までいっぱい詰まった本棚になっているほか、真ん中の塔にも本棚が設けられていて蔵書の数は相当な数だ。本棚はノルヴラント各地方ごとに大分類され、さらにそこから細かくジャンルごとに分かれている。色々と興味深い本が並んでいてつい目的を忘れそうになりながら目的の本棚を探した。ナバスアレンとアムアレーンは同じ2階の本棚に並べて整理されていた。あたしはその棚から伝承や口伝について書かれた古びた表紙の厚い本を取ると据え付けられた机に広げ読み始めた。ノルヴラントで使用される文字はエオルゼアの言語とは違うが既にこちらに来て長くなっているあたしにはほぼほぼ読めない字はない。古びて敗れそうな羊皮紙を慎重にめくりながら目的のページを探した。
『ナバスアレンに現れた蜥蜴の姿をした悪魔シュガール』そのページを見つけるとあたしは机についた灯りを引き寄せて本に覆い被さるようにして書かれた文字を追った。このシュガールという悪魔は姿形こそ共通しているものの、周期的に女神と結びつき嵐を起すだとか、春の守護者だとか地方や宗派によりいくつもの謂れがあるようなのだが、いずれもナバスアレンに現れたとシュガールとは違っている。
ナバスアレンの史実をそのまま読めばこうだ。
昔、王位を争う兄弟の王子がいた。兄は穏やかな性格で国民に愛され、弟は姑息で陰険な性格で国民には嫌われていたという。幼少の頃から外見には仲の良い兄弟だったが、その実、幼少の頃から権力欲の強い弟にとっては王位継承の順位も国民からの支持も厚く、どう転んでも王位を継承するであろう兄が妬ましく、目の上のたん瘤だった。兄弟が十代の後半になった頃、父である先王が突然の病に伏し、俄かに王位継承の話が現実味を帯びた。父も国民も兄の王位継承を微塵も疑っていない中、弟は隠し切れない程嫉妬の掘脳を燃やしていた。王宮内でも目に見えるほどの弟君の様子に危険を訴える者も現れるほどだったが兄君は「いずれは弟も分かってくれる」といって取り合わなかったという。
そんな中、弟君に良からぬことを吹き込む者があったという。黒いローブの男と呼ばれるその者の手引きにより嫉妬と権力欲に捕らわれた弟君は悪魔との契約に踏み切ってしまう。その悪魔がナバスアレンで「疫魔」と呼ばれるシュガールだという。弟君はシュガールに王位継承権を奪うため兄君と文句を言わせないために老い先短い先王の殺害を願ったという。程なくして王宮内に疫病が流行り、体の弱い先王が、その後を追うように兄君が若くして無念の病死を遂げた。そして弟君は願い通り王老いに付く事となったが、悪魔との契約し、肉親を殺害したとの噂が国中に広がり国民の大多数から反発をうけ後ろ指をさされることとなった。自分の言うことを聞かない国民に業を煮やした弟君はあろうことか今度は自分に反発する国民の殺害を願ったという。そのことで、ナバスアレンには疫病が蔓延し多くの国民が命を落とすこととなった。悪魔と手を組んだ悪王の名はノルヴラント全土に轟き、それを聞きつけた勇者が討伐に乗り出し、悪魔は封じられ、悪王と呼ばれた弟君は誅殺されることとなったのだという。
この史実を元に、子供にもわかりやすく寓話化され、疫魔シュガールは「親の言う事を聞かず、好き勝手する者のもとには大蜥蜴の悪魔シュガールがやってくる」という話が今のアムアレーンまで寝物語として伝えられている。最近、アム・アレーンを騒がせている巨大な蜥蜴の魔物シビルスが、「シュガール」名で呼ばれて過剰に反応されている背景には、こうした口伝の影響があるようだ。